複素数の極形式は「かけ算の意味」を変えます。ふつうの数のかけ算は「拡大」だけ。複素数では「回転」が加わる。
絶対値はかけ算、偏角は足し算
この一行が、複素数平面のほぼすべてです。
結論:極形式とかけ算
複素数 を、原点からの距離 と偏角 で表したものが極形式です。
2つの複素数をかけると
| かけ算での変化 | |
|---|---|
| 絶対値 | かけ算(拡大・縮小) |
| 偏角 | 足し算(回転) |
なぜそうなるのか
加法定理そのものです。展開すると
実部と虚部は、それぞれ加法定理の右辺です。
複素数のかけ算に、加法定理が隠れていた——これが極形式の正体です。
いちばん分かりやすい例: を掛ける
の極形式は 、。つまり
を掛ける = 大きさはそのまま、90°回転
【検算】 に を掛けます。
点で見ると 。これは90°回転です ○
【検算2】絶対値を比べます。
変わっていません ○ 回転だけで拡大していない。
【検算3】もう一度 を掛けると 。
。合計180°回転——確かに を掛けたのと同じです ○
極形式にする練習
を極形式で表せ。
偏角は 、 から 。
【検算】展開して戻します。
実部も虚部も1。 に戻りました ○
を極形式で表せ。
したがって 。
【検算】、 ○
かけ算してみる
を極形式で求めよ。
絶対値はかけ算、偏角は足し算です。
【検算1】直接展開します。
絶対値を計算すると
一致 ○
【検算2】。数値では 、。
一方 、。一致 ○
【検算3】偏角の足し算。 ○
ド・モアブルの定理:回転の繰り返し
回かける= 回まわす。偏角が 倍になるだけです。
を求めよ。
【検算1】直接計算します。
一致 ○
【検算2】 ○ でちょうど1周——だから実数になります ○
1の 乗根:円周を等分する
の解は、単位円周を 等分した点です。
【検算】 で確かめます。
として3乗します。
確かに1になりました ○ が3つ目の解になっているのも確認できます。
学校の授業では、なぜここが飛ばされやすいのか
1. 「かけ算=回転」の意味が計算に埋もれるから
極形式の積の公式は加法定理の計算で導かれます。だから計算としては追える。
ところが「かけ算が回転になる」という意味は、計算式の中には書かれていません。 を掛けて90°回る——この1例を見るだけで、意味が一気に立ち上がります。
2. 具体的な回転の例が示されにくいから
教科書は一般的な公式から入ります。それは正しい順序ですが、実感が伴いにくい。
に を掛けると ——座標で見れば90°回転そのもの。具体例が1つあれば、公式が図として見えます。
3. 偏角の範囲の約束が問題ごとに違うから
偏角は 足しても同じ点を表します。だから範囲を決める約束が必要です。
ところが とする流儀と とする流儀があり、問題によって変わる。この曖昧さが混乱のもとになります。問題文の指定を確認するのが確実です。
【検算】3つの方法
1. 極形式を展開して戻す
と がもとの実部・虚部になるはずです。
【検算】 ○
2. 直接展開して比べる
積は、そのまま展開しても計算できます。
【検算】、絶対値 ○
3. 絶対値だけ確認する
【検算】 ○ 偏角を間違えても絶対値は合うので、部分的な検算として使えます。
よくあるミス
ミス1:偏角をかけ算する
足し算です。かけるのは絶対値。
ミス2:偏角の象限を間違える
と の両方の符号で決めます。 だけでは決まりません。
ミス3: を負にとる
です。
ミス4:ド・モアブルで絶対値を忘れる
も必要です。 なら 。
ミス5: 乗根の個数を間違える
個あります(円周の 等分)。
ミス6:偏角の範囲を確認しない
問題文の指定に合わせます。
練習問題
- を極形式で表しなさい。
- を極形式で表しなさい。
- を極形式で表しなさい。
- 3を直接展開して、絶対値が一致することを確かめなさい。
- に を掛け、90°回転することを確かめなさい。
- を求めなさい。
- の解をすべて求めなさい。
解答
- 、。
- 、絶対値 ○
- 。 で90°回転、絶対値は のまま ○
- 、偏角 なので16。検算:、、 ○
- 。検算: ○
まとめ
- 極形式は(距離と角度)
- かけ算は絶対値をかけ、偏角を足す
- 根拠は加法定理
- を掛ける=90°回転
- ド・モアブルは 回まわす( も忘れずに)
- の解は単位円の 等分点
- 検算は展開して戻す/直接計算/絶対値だけ確認
複素数平面の力は「回転を、かけ算1つで表せる」ことにあります。座標での回転は行列や三角関数が必要ですが、複素数なら掛けるだけ。図形の問題が代数の計算になる——それがこの単元の最大の見返りです。
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