を解くと 。不等号の向きが変わる。「負の数で割ったら逆にする」と覚えていても、なぜ逆になるのかは説明されないまま使っている人が大半です。
理由は数直線を見れば一目です。そして理由が分かると、文字で割るときに場合分けが必要な理由も同時に分かります。
結論: 倍は数直線の反転だから
をかけるという操作は、数直線上で原点を中心にひっくり返すことです。
| もとの数 | 倍 |
|---|---|
もともと でした。 倍すると と になり
大小が入れ替わりました。右にあったものが左に、左にあったものが右に移るからです。
だから 倍(=負の数をかける・割る)すると、不等号の向きが逆になる。
【検算】いくつか確かめます。
| もとの不等式 | 倍 | 正しいか |
|---|---|---|
| ○ | ||
| ○ | ||
| ○ |
3つとも向きが逆になっています ○
正の数のときは変わらない
対比しておきます。正の数をかけても向きは変わりません。
を3倍すると 。向きはそのまま。
理由も同じ発想です。正の数倍は、数直線を原点から引き伸ばす(または縮める)だけで、左右の順序は変わりません。
正の数倍=伸縮(順序そのまま)/負の数倍=反転(順序が逆)
0倍は使えない
を0倍すると と 。等しくなってしまい、不等式が壊れます。
だから0で割ることも、0をかけることもできません。
足し算・引き算では変わらない
もう1つ確認しておきます。両辺に同じ数を足しても引いても、向きは変わりません。
に3を足すと 。 を足しても 。どちらも向きはそのまま ○
理由は平行移動だからです。2つの点を同じ方向に同じだけずらしても、左右の関係は変わりません。
| 操作 | 不等号 |
|---|---|
| 両辺に同じ数を足す・引く | 変わらない |
| 両辺に正の数をかける・割る | 変わらない |
| 両辺に負の数をかける・割る | 逆になる |
| 両辺に0をかける | 使えない |
向きが変わるのは負の数をかけ割りするときだけです。
実際に解く
を解きなさい。
両辺を で割ります。負の数なので向きを逆にします。
【検算】範囲の中と外で試します。
- (範囲内) … ○
- (範囲内) … ○
- (境界) … は偽 ○(等号は含まない)
- (範囲外) … は偽 ○
境界の内外で正しく切れています ○
向きを変えない解き方もある
負の数で割るのが不安なら、移項して正にできます。
両辺に を足し、両辺から6を引きます。
両辺を正の数2で割るので向きはそのまま。
同じ答えです ○。 の係数を正にしてから割る——この方法なら、向きを逆にする場面がなくなります。
文字で割るときは場合分けが必要
ここが本題です。理由が分かると、この重要な事実が自然に出てきます。
を について解きなさい( は0でない実数)。
で割りたいのですが、 の符号が分かりません。だから場合分けします。
- のとき … 正の数で割るので向きはそのまま。
- のとき … 負の数で割るので向きが逆。
答えが2通りに分かれました。
【検算】具体的な値で確かめます。
- のとき … より ○( の場合と一致)
- のとき … より ○( の場合と一致)
数値でも確認します。、 なら左辺 、右辺 。 で成立 ○。 なら左辺 、右辺 で は偽 ○
「文字で割るときは符号を確認する」——これは高校数学で繰り返し出てくる原則です。
学校の授業では、なぜここが飛ばされやすいのか
1. 規則だけで正解できてしまうから
「負の数で割ったら逆にする」は3秒で覚えられ、すべての問題で正解できます。理由に戻る必然性が構造的に発生しません。
ほころびが出るのは文字で割るときです。そこで初めて「符号が分からないと割れない」という状況に直面します。
理由(反転)を理解していれば、文字で割るときの場合分けも当然のこととして受け入れられます。
2. 中1で不等式を扱わないから
方程式は中1で学びますが、不等式が本格的に登場するのは数Iです。等式の性質(両辺に同じ数をかけてよい)は中1で扱われるのに、不等式の性質は数Iまで待つことになります。
この空白のあいだに「両辺に同じ数をかけてよい」という感覚だけが残り、符号の条件が抜け落ちる——という順序になりやすいのです。
3. 数直線での説明が省かれやすいから
反転という説明は図を描く必要があります。ところが規則そのものは1行で書けるため、説明より規則の提示が優先されやすい。
の両辺を 倍すると ——この1例を自分で確かめるだけで、理由は納得できます。
【検算】3つの方法
1. 具体的な数を代入する
最も確実です。範囲の内側・境界・外側の3点で試します。
| 不等式 | 答え | 内側 | 外側 |
|---|---|---|---|
| → ○ | → × | ||
| → ○ | → × | ||
| → ○ | → × |
内側で成り立ち、外側で成り立たなければ正解です。
2. 移項して係数を正にする
別の解き方で同じ答えになるかを確かめます。負の数で割らずに解けば、独立した検算になります。
3. 向きが変わった回数を数える
負の数で割った(かけた)回数が奇数なら向きが変わり、偶数ならもとに戻ります。
途中で2回逆にしていたら、もとの向きに戻っているはずです。
よくあるミス
ミス1:負の数で割ったのに向きを変えない
最も多いミスです。 を としてしまう。
【検算】 を入れると で偽。誤りだと分かります ○
ミス2:足し算・引き算でも向きを変える
足し引きでは変わりません。変わるのは負の数のかけ割りだけです。
ミス3:文字で割るときに場合分けしない
符号が分からない文字では割れません。 と に分けます。
ミス4:0で割る
0では割れません。文字で割るときは も確認します。
ミス5:両辺を2乗して向きを保つ
2乗では向きが保たれるとは限りません。 ですが2乗すると 。
両辺が0以上のときだけ2乗しても向きが保たれます。
練習問題
- を解きなさい。
- を解きなさい。
- を解きなさい。
- 3を、移項して係数を正にする方法でも解きなさい。
- ()を について解きなさい。
- の両辺を 倍した式を書きなさい。
解答
- で割って向きを逆にし。検算: で ○、 で は偽 ○
- 両辺から5を引いて 。 で割って。検算: で ○
- 両辺から4を引いて 。 で割って。検算: で ○
- の両辺に を足して 。10を引いて 。2で割って 、つまり。3と同じ ○
- のとき、 のとき。検算: なら 、 なら より ○
- 。向きが逆になります。検算: は より右にある ○
まとめ
- 倍は数直線の反転。だから大小が入れ替わる
- 向きが変わるのは負の数をかけ割りするときだけ
- 足し引きは平行移動、正の数倍は伸縮。どちらも順序は変わらない
- 0では割れない。0倍すると不等式が壊れる
- 不安なら移項して係数を正にしてから割る
- 文字で割るときは符号で場合分け( と )
- 検算は内側・境界・外側で代入/別の解き方と突き合わせる
「文字で割るときは符号を確認する」という原則は、数Iの不等式だけでなく、数IIの分数不等式、数IIIの極限や微分の増減判定まで、高校数学の全域で使われます。割る相手の符号が分からないなら、場合分けする——この反射を数Iのここで作っておくと、後の学年で条件を落とす失点が大きく減ります。
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