背理法は「結論を否定して矛盾を導く」——説明を聞けば分かるのに、いざ書こうとすると1行目から止まる。数Iの論証で最も書き出しに困る証明法です。
ですが背理法には決まった書式があります。3行の型を覚えれば、書き出しで迷うことはなくなります。
結論:3行の型で書く
| 行 | 書くこと | 書き方 |
|---|---|---|
| 1 | 結論を否定して仮定する | 「〜でないと仮定する」 |
| 2 | そこから矛盾を導く | 計算・論証 |
| 3 | だから仮定が誤り=結論が正しい | 「これは矛盾。よって〜である」 |
書き出しは必ず「〜でないと仮定する」です。ここは考える必要がありません。
否定する対象は結論だけ。仮定(問題文で与えられた条件)はそのまま使います。
なぜ矛盾を導くと証明になるのか
論理の構造はこうです。
- 示したいことを とする
- でないと仮定する
- そこから誰が見ても偽の結論(矛盾)が出た
- 正しい推論から偽が出るのは出発点が偽だったから
- つまり「 でない」が偽。したがって が真
「 でない」と「 である」のどちらかは必ず正しい——だから片方を潰せば、もう片方が確定します。
【検算】簡単な例で構造を確認します。
を整数とする。 が偶数ならば は偶数であることを、背理法で示しなさい。
1行目: が偶数でない、つまり は奇数だと仮定する。
2行目:( は整数)と書けるので
は奇数になります。
3行目:これは「 が偶数」という仮定に矛盾。よって は偶数です。
【検算】実際の数で確かめます。 なら 、。確かに奇数 ○。 で整数 ○
そして が偶数になる を から まで調べると、すべて偶数です ○
背理法と対偶の違い
上の例は対偶でも証明できました。どう違うのでしょうか。
| 否定するもの | ゴール | |
|---|---|---|
| 対偶 | 結論と仮定の両方 | 「」を示す |
| 背理法 | 結論だけ | 矛盾を出す(何でもよい) |
背理法のほうが自由度が高い——導く矛盾は何でもよいからです。仮定と矛盾してもいいし、明らかな偽( など)でもいい。
逆に対偶はゴールが決まっているぶん、方針が立てやすい。
使い分け:「〜でない」を示したいとき、または存在しないことを示したいときは背理法。それ以外で仮定と結論が明確なら対偶が速いことが多い。
典型例: が無理数
背理法でしか示せない最も有名な例です。
が無理数であることを証明しなさい。
1行目: が有理数だと仮定する。
するとこれ以上約分できない分数として と書けます( は整数、、互いに素)。
2行目:両辺を2乗します。
は偶数。先ほど示したとおり、 も偶数です。そこで と書くと
も偶数。だから も偶数。
3行目: と がどちらも偶数——これは「互いに素」に矛盾します(2で約分できてしまう)。
よって は有理数ではない、つまり無理数です。
【検算】途中の計算を確かめます。
- の両辺が等しいこと … なら で不成立(だから解がない)
- を代入 … より ○
「互いに素なのに両方偶数」という矛盾が核心です。
数値でも確認:。分数で近似すると 。近いが一致しません。
実際 、。1だけ違う ○。どんな分数でもぴったりにはならないのです。
「存在しない」ことの証明
背理法が最も力を発揮する場面です。
を満たす実数 は存在しないことを示しなさい。
1行目:そのような実数 が存在すると仮定する。
2行目: となります。しかし実数の2乗は必ず0以上です。
3行目: と は矛盾。よってそのような実数は存在しません。
【検算】実数の2乗が0以上であることを確認します。 なら9、 なら9、 なら0。すべて0以上 ○
「存在する」を示すには1つ見つければ足りるのに対し、「存在しない」を示すにはすべてを調べるか、背理法を使うしかありません。
学校の授業では、なぜここが飛ばされやすいのか
1. 中学で背理法を扱わないから
中学の証明はすべて直接証明です。仮定から出発して結論に至る。「結論を否定してみる」という発想は登場しません。
数Iで初めて逆向きの推論を求められます。3年間積み上げた習慣と逆の動きなので、慣れるまで時間がかかるのは自然です。
2. 「矛盾」の形が問題ごとに違うから
対偶ならゴールが決まっています。ところが背理法ではどんな矛盾が出るか事前に分からない。
- 仮定と矛盾する
- 既知の定理と矛盾する
- のような明らかな偽が出る
「何と矛盾させるか」は問題ごとの判断になり、手順として示しにくい。だから典型例を何個か知っておくことが実用的です。
3. 使う場面が限られるから
背理法が必須なのは、主に「〜でない」「存在しない」を示すときです。それ以外では直接証明や対偶のほうが速いことが多い。
使用頻度が低いぶん練習量も少なくなり、いざ必要になったときに書き方を忘れている——という順序になりやすいのです。
対策は3行の型を覚えてしまうこと。「〜でないと仮定する」から書き始めれば、あとは計算です。
【検算】3つの確認
1. 否定が正しく作れているか
| 示したいこと | 否定(仮定するもの) |
|---|---|
| は偶数 | は奇数 |
| は無理数 | は有理数 |
| 存在しない | 存在する |
| すべての〜が… | ある〜は…でない |
否定を間違えると証明全体が崩れます。最初に確認してください。
2. 矛盾が本当に矛盾か
何と矛盾しているのかを明記します。「仮定に矛盾」「互いに素に矛盾」など、相手を書くのが答案の作法です。
3. 具体例で確かめる
証明したあと、いくつかの値で結論が成り立つことを確認します。
- が偶数 → が偶数: で確認済み ○
- :どんな実数を入れても左辺は1以上 ○
よくあるミス
ミス1:仮定まで否定する
否定するのは結論だけです。問題文で与えられた条件はそのまま使います。
ミス2:否定を間違える
「無理数」の否定は「有理数」です。「実数でない」ではありません。2択の分類を正しく押さえること。
ミス3:矛盾の相手を書かない
「矛盾する」だけでなく「〜に矛盾する」と書きます。何と矛盾したのかが答案の核心です。
ミス4:結論を書かずに終わる
最後に「よって〜である」と書きます。矛盾を出しただけでは証明が完了していません。
ミス5:矛盾が出ないのに強引に結論する
矛盾が出なければその方針では示せていません。別の矛盾を探すか、方法を変えます。
練習問題
- 背理法の1行目は何と書き始めるか。
- 「 は無理数」を背理法で示すとき、何を仮定するか。
- 「 が3の倍数ならば は3の倍数」を背理法で示すとき、何を仮定するか。
- 「 を満たす実数は存在しない」ことを示しなさい。
- が成り立たないことを、2乗して確かめなさい。
- 「すべての整数 について 」の否定を書きなさい。
解答
- 「〜でないと仮定する」(結論を否定して仮定する)
- が有理数であること。互いに素な整数 を使って と表せると仮定します
- が3の倍数でないこと。 または として を計算します
- 存在すると仮定すると 。しかし実数の2乗は0以上なので矛盾。よって存在しません。検算: で左辺4、 で8。0にならない ○
- 、。9801≠9800 なので成り立ちません ○
- 「ある整数 について 」。「すべて」の否定は「ある〜は…でない」です
まとめ
- 書式は3行。①「〜でないと仮定する」②矛盾を導く ③「よって〜である」
- 否定するのは結論だけ。仮定はそのまま使う
- 成り立つ理由は「 でない」を潰せば が確定するから
- 対偶との違いはゴールの自由度。背理法はどんな矛盾でもよい
- 「存在しない」の証明では背理法がほぼ必須
- 答案には「何に矛盾したか」を明記する
- 検算は否定が正しいか/矛盾の相手が明確か/具体例で確認
背理法は、数Aの整数の性質、数IIIの極限(– 論法)、そして大学以降の数学全般で標準的な道具になります。とくに「無限に存在する」「存在しない」といった主張は、背理法なしでは扱えません(素数が無限にあることの証明も背理法です)。数Iのここで3行の型を身につけておくことが、その先すべての土台になります。
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