「移項したら符号を変える」——中1の方程式で最初に出てくるルールです。手順としては覚えられても、なぜ符号が変わるのかを説明できる人は少ないのではないでしょうか。
実は移項というのは新しい操作ではありません。すでに知っている操作の「省略した書き方」にすぎません。それが分かると、符号が変わる理由も、どこまで移項してよいかの線引きも同時に見えてきます。
結論:移項は「両辺から同じ数を引く」の省略形
先に答えを書きます。移項の正体は次の1行です。
移項=両辺に同じ数を足す(または引く)作業の、途中を省いた書き方
両辺から同じ数を引くと、引いた側では打ち消し合って消え、反対側にはその数が引かれた形で残ります。「符号が変わって移った」ように見えるのは、この結果だけを見ているからです。
省略せずに書くと何が起きているか
を、移項を使わずに解いてみます。
使うのは等式の性質——「等式の両辺に同じ数を足しても(引いても)、等式は成り立つ」——ただ一つです。天びんの左右から同じおもりを取り除いても、つり合いは崩れません。
両辺から を引きます。
左辺は なので だけが残ります。
ここで左辺の が消え、右辺に が現れたことに注目してください。この途中式を書かずに、いきなり結果だけを書いたものが移項です。
つまり符号が変わったのではなく、「両辺から3を引いた」という操作の痕跡が、反対側に として現れているだけなのです。
引き算の項でも同じ
今度は を見ます。両辺に を足します。
左辺の が消え、右辺に が現れました。省略形で書けば
「 を移項したら になった」と説明される場面ですが、実際にやっているのは両辺に を足しただけです。
左辺・右辺のどちらから移してもよい
のように、右辺に文字がある場合も同じです。両辺から を引きます。
両辺を で割って 。
【検算】もとの式に を戻します。左辺 、右辺 。両辺とも で一致しました。
なぜ「かけ算の数」は移項できないのか
ここがいちばん間違えやすいところです。
を「 を移項して 」とするのは誤りです。
理由ははっきりしています。移項の正体は「両辺に同じ数を足す・引く」でした。ところが の は にかけられているので、引いても消えません。
だけになっていません。かけられている数を外すにはわり算を使う必要があります。
【検算】。正しい。ちなみに誤答の を代入すると となり、合いません。
まとめると——
- 足し算・引き算でくっついている項:移項できる(符号が変わる)
- かけ算・わり算でくっついている数:移項できない。両辺を割る・かける
【検算】移項の前後で解が変わらないことを確かめる
移項が正しい操作なら、移項する前の式と後の式は同じ解を持つはずです。 と で確かめます。
| は成り立つか | は成り立つか | |
|---|---|---|
| ✕ | ✕ | |
| ✕ | ✕ | |
| ○ | ○ | |
| ✕ | ✕ |
成り立つ が完全に一致しました。移項によって解の集合が変わっていないことが確認できます。これが「移項してよい」ことの意味です。
よくあるミス
ミス1:移項したのに符号を変え忘れる
を としてしまう間違いです。移項は「両辺から引く」なので、右辺には必ず引き算として現れます。
不安なときは、省略せずに と書けば間違えません。
ミス2:移項していない項の符号まで変える
で、 と を移項するときに、動かしていない や の符号まで変えてしまうミスです。符号が変わるのは、辺をまたいで移動した項だけです。
【検算】左辺 、右辺 。一致します。
ミス3:等号がないのに移項する
移項が使えるのは等式(=がある式)だけです。 のような「式」には左辺・右辺がないので、移項という操作自体が存在しません。ここで移項してしまうと、まったく別の式に変わってしまいます。
練習問題
- を解きなさい。
- を解きなさい。
- を解きなさい。
- を「移項」で解こうとするとどこが誤りか説明しなさい。
解答
- 両辺から を引いて
- 両辺に を足して
- を左へ、 を右へ移項して 、すなわち 、よって 。【検算】左辺 、右辺 で一致
- は にかけられているので、引いても消えない。移項ではなく両辺を で割り、 とするのが正しい
まとめ
- 移項は新しい操作ではなく、「両辺に同じ数を足す・引く」の省略形
- 符号が変わるのではなく、両辺から引いた痕跡が反対側に現れている
- 移項できるのは足し算・引き算でつながった項だけ。かけ算の数は割って外す
- 迷ったら省略せずに「両辺から〜を引く」と書けば、符号を間違えない
ここを「そういう決まり」で通り過ぎると、中2の連立方程式、中3の二次方程式、高校の不等式で同じつまずきが繰り返し出てきます。逆に等式の性質1本で説明できると分かっていれば、どの単元でも自力で立て直せます。
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