因数分解は計算の道具です。ところが「因数分解しなさい」という問題は解けるのに、因数分解を使って計算する問題になると手が止まる。
を筆算で計算しようとする。 を真面目に と計算する。因数分解を使えば暗算で終わります。
結論:平方の差を見たら因数分解する
最も使う場面は平方の差です。
この公式は右向きにも左向きにも使えます。数の計算では左辺から右辺へ使うのが有効です。
を計算しなさい。
まともに計算すると 。 の筆算が面倒です。
因数分解すると
暗算で終わりました。
【検算】 なので ○。
なぜ楽になるのか
足すとキリのよい数になるからです。。かけ算がしやすい形に変わります。
この効果が出るのは、2数の和か差がキリのよい数になるとき。
| 式 | 因数分解 | 計算 |
|---|---|---|
| 9600 | ||
| 10200 | ||
| 49 | ||
| 360 |
3行目に注目してください。差が1のときは、 となり、足すだけで答えが出ます。
【検算】、。 ○。確かに です。
共通因数を使う型
を計算しなさい。
2つのかけ算をしてから足すと大変です。37が共通因数なのでくくり出します。
【検算】、。 ○。
「同じ数が2回かけられている」のを見たら、くくり出す。分配法則の逆向きです。
式の値を求める型
、 のとき、 の値を求めなさい。
そのまま代入すると 。2つの2乗を計算することになります。
先に因数分解します。
【検算】 ○。
代入する前に因数分解する——これが式の値の問題の鉄則です。
もう1つの例
、 のとき、 の値を求めなさい。
因数分解すると 。
【検算】そのまま計算すると ○。小数の計算が3回から1回に減りました。
証明に使う型
連続する2つの奇数の2乗の差は8の倍数になる。これを証明しなさい。
連続する2つの奇数を 、 とします( は整数)。2乗の差は
展開してもできますが、平方の差の公式を使うほうが速い。
は整数だから、 は8の倍数です。
【検算】実際の数で確かめます。
| 2つの奇数 | 2乗の差 | 8で割ると |
|---|---|---|
| 1, 3 | 1 | |
| 3, 5 | 2 | |
| 5, 7 | 3 | |
| 7, 9 | 4 |
すべて8の倍数で、しかも と8ずつ増えています ○。
展開してから引くと 。同じ答えですが、公式を使うほうが計算量が少ないのが分かります。
学校の授業では、なぜここが飛ばされやすいのか
1. 「因数分解しなさい」という問題が単元の中心だから
因数分解の単元では、因数分解そのものを実行する練習が中心になります。道具として使う問題は、単元の後半に「利用」として置かれます。
分量として大きいのは前半なので、「使う」練習の機会は構造的に少なくなります。
2. 使うべき場面が問題文に書かれていないから
「 を計算しなさい」——ここに「因数分解を使って」とは書かれていません。
自分で「これは平方の差だ」と気づく必要があります。ところが気づき方を明示的に教える場面は構成上生まれにくい。
気づき方は決まっています。2乗の引き算を見たら因数分解。数字でも文字でも同じです。
3. 「まともに計算しても答えは出る」から
は、筆算でも解けます。正解できてしまうので、工夫する必要が生じません。
差が出るのは時間とミス率です。筆算は時間がかかり、桁を間違えるリスクもある。その差は答案には現れません。
ただし数が大きくなると、工夫なしでは現実的でなくなります。たとえば は、因数分解すれば で一瞬です。「大きい数が出たら因数分解を疑う」と決めておくと確実です。
【検算】まともに計算して確かめる
因数分解を使った計算の検算はまともに計算することです。時間はかかりますが、確実です。
| 問題 | 因数分解で | まともに |
|---|---|---|
| ○ | ||
| ○ | ||
| ○ | ||
| ○ |
証明の検算は、具体的な数を入れて成り立つかを見ます。ただしこれは確認であって証明ではありません。証明は文字での式変形のほうです。
もう1つ、桁数で見当をつける方法もあります。 は約9600なので、答えも9600前後のはず。大きく外れたら計算ミスです。
よくあるミス
ミス1:平方の差に気づかない
2乗の引き算を見たら因数分解。これを反射にしてください。
ミス2:和の形を分解しようとする
は因数分解できません。平方の差だけです。
ミス3:代入してから計算する
式の値の問題では先に因数分解します。代入は最後です。
ミス4: と を取り違える
。大きいほうから小さいほうを引くのが です。
答えが負になったら、順番を確認してください。
ミス5:証明で「整数だから」を書き忘れる
が8の倍数だと言うには、 が整数であることを明記します。
練習問題
- を工夫して計算しなさい。
- を工夫して計算しなさい。
- を工夫して計算しなさい。
- 、 のとき、 の値を求めなさい。
- のとき、 の値を求めなさい。
- 連続する2つの偶数の2乗の差は4の倍数になることを証明しなさい。
解答
- 10400。検算:、 ○
- 5200。検算: ○
- 6400
- 6。検算: ○
- 10000。そのまま計算するより圧倒的に速い
- 連続する2つの偶数を 、 とすると
は整数だから4の倍数。検算:、 ○
まとめ
- 2乗の引き算を見たら因数分解。数字でも文字でも同じ
- 楽になるのは和か差がキリのよい数になるとき
- 同じ数が2回かけられていたら共通因数でくくる
- 式の値は代入する前に因数分解する
- 証明でも公式を使うほうが計算量が少ない
- 検算はまともに計算する/桁数で見当をつける
- 平方の和は分解できない。差だけ
「計算しやすい形に変えてから計算する」という発想は、高校でさらに重要になります。分数式の約分、極限での不定形の解消、積分の前の式変形——どれも「そのまま計算せず、まず形を整える」という同じ手順です。因数分解は、その最初の道具です。中3のここで「使う側」の練習をしておくと、その先の計算がずっと軽くなります。
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